大下藤次郎紀行文「尾瀬沼」
◇尾瀬に関する文献
○初期の尾瀬の文献
 昔から尾瀬は,奥州と関東を結ぶ通路の一つでした。「会津風土記」「利根川図誌」「富士見十三州輿地図」などの江戸時代の文献にも小瀬,尾瀬沼などの記述が見られますが,これらはあくまでも地誌的な紹介にとどまっています。尾瀬が広く世に知られたのは明治に入ってからで,次の数点の文献によるところが大きいと言われています。

○「利根水源探検紀行」渡辺千吉郎
明治27年9月に群馬県が行った利根水源調査のための探検記録を,隊員だった渡辺氏が「太陽」創刊号に発表したもので,当時の総合雑誌に掲載されたことによって,奥上州から会津への秘境を多くの人に紹介するのに役立ちました。
○「南会津竝に其の附近の植物」早田文蔵
東大植物学教室の早田氏は,植物学から見た尾瀬の調査を行い,「植物学雑誌」191号(明治36年1月)に発表しました。これを機に尾瀬を訪れる植物学者が増え,多くの新種が発見されるきっかけとなりました。
○「尾瀬紀行」武田久吉
早田氏の一文によって尾瀬を知った武田氏の山行記録で「山岳」1年1号(明治39年4月)に発表されました。近代的登山の色彩の濃いもので,登山家への影響は大きかったと思われます。
○「みずゑ」尾瀬沼号
尾瀬写生旅行を試みた大下氏は,帰京後尾瀬の写真展を開くとともに,尾瀬の風景や紀行文を織り交ぜた「みずゑ」特別号を発行し,都会人の目のあたりに尾瀬の美観を紹介しました。

 その後も木暮理太郎著「山の思ひ出」(昭和14年6月),平野長蔵著「燧ヶ岳開山実記」,川崎隆章・平野長英共著「尾瀬」など尾瀬との深い関わりを持つ人たちが尾瀬を紹介しています。

○参考文献(一部抜粋)
・「山渓カラーガイド6 尾瀬」(山と渓谷社編,山と渓谷社:1971年)
「尾瀬−山小屋三代の記」(後藤允著,岩波書店:1984年)
「大下藤次郎紀行文−尾瀬沼」(大下藤次郎著,美術出版社:1986年復刻)
・「尾瀬自然ハンドブック」(尾瀬の自然を守る会監修,自由国民社:1990年)
・「尾瀬 花の旅」(布施正直著,講談社:1993年)
・「尾瀬ものがたり」(浅野孝一著,新潮社:1993年)
・「尾瀬と鬼怒沼」(武田久吉著,平凡社:1996年)
・「尾瀬の自然」(近藤篤弘・近藤陽子著,成美堂出版:1998年)


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